◆第22回東京国際映画祭~「心の魔」ホー・ユーハン特集

ここ数年、世界各地の映画祭で注目を集めている“マレーシア新潮流”。東京国際映画祭でも2004年以来、毎年、その秀作が紹介されている。今年は、ホー・ユーハン監督が新作『心の魔(中国語原題:心魔、英語タイトル:At the End of Daybreak)』をもって来日した。ホー・ユーハンは、アンディ・ラウの《FFC:アジア新星流》企画で『RAIN DOGS』を監督し、評価を受けた俊英である。 (2009.11.17)

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「じつは、ニュースで事件のことを読んで、かなり衝撃を受けたので、映画化したいと思って脚本にしたんだ」と言ってユーハンが撮ったのが今回の新作『心の魔』。女子高生と20歳過ぎの青年が関係を持ったことが、やがて殺人事件に発展する、その過程を描いたものだ。日本で条例により18歳未満との性行為が禁じられているように、マレーシアにおいても未成年者との性行為は罪に問われるようで、娘と青年の関係を知った女子高生の両親は、告訴しない代わりに示談金を寄越せと青年に迫る。青年は母子家庭で決して裕福ではない。当初は、両親に反発して青年との関係に心の拠り所を求めていた女子高生も、示談の話が出てからは態度を一変させ、青年を遠ざけようとする。そうして、青年は追い込まれていく。

実在の事件に触発されたというわけだが、彼は事件のどんな部分に惹かれたのだろう。単独取材の場で、ユーハンはこんな話をしてくれた。

「僕は、人の行動というものにすごく魅せられているんだ。犯罪はニュースで告げられるように日々あるよね。誰かが殺されたら何だあったと。そういう事件は止むことなく続いている。なぜ犯罪が起きるかではなくて、人がどういう行動をするか、行動に興味があるんだ。みんな、映画を作る人は、精神的なものであれ肉体的なものであれ、そういうものにすごく惹かれるんだ」

Q&Aに参加した人はご存知だろうが、作品の深刻さとは結びつかないほどホー・ユーハン自身は愉快でフレンドリーな人物だ。人間に対する好奇心が、彼をフレンドリー成さしめるのではないだろうか。彼はまた“超”がつく読書家でもある。

「いろいろ読むんだよ。犯罪小説ってなんとなくふつうの小説から卑下されていると思うのけど、犯罪小説こそ人間の心理とか人間の問題をよくわかって捉えていると思うんだ。人間の心の闇をすごくよく捕らえて、社会・政治的な問題を背景にしてリアルに描かれている。セックスとかポルノ的な要素があるからまともに扱われないところがあるけれども、中にはふつうの小説より優れたものもいっぱいあると思うんだ」

好きな犯罪映画は?と訪ねたところ、ロバート・ミッチャムの「過去を逃れて」 ('47)にジョン・ヒューストンの「アスファルト・ジャングル」('50)、ニコラス・レイの「夜の人々」 ('49)、ハワード・ホークスの「三つ数えろ」('46)と出てくること、出てくること。無声映画も好きだと、フリッツ・ラングの「飾窓の女」('44)と、これまた古い映画のオンパレード。

「本は昭和の探偵もの、夢野久作とかがすごく好き。江戸川乱歩とか。東野圭吾も。質が高いよ。マレーシアにはこういうのはないね」

 と意外なセレクションだ。

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「心の魔」はロカルノ国際映画祭NETPAC賞を受賞した作品である。主人公の青年の母親を演じた惠英紅(クララ・ワイ、又はベティ・ウェイ)は今月末に発表になる金馬奬で最優秀助演女優賞にノミネートされており、ホー・ユーハンは国外にも知られるようになってきている。

「(名前が知られるようになったからといって)自分としては自分がよくなっているとは一概に言えないと思う。新作を作る度に自分を疑う。自分に自信を持てずにやっているんだ。今日も観客に混じって映画を見ていたけど、うーん、やっぱりまだいまいちだな、まあまあだけど、でもね、という感じ。いい映画を作るってやっぱり大変なこと。知名度が上がったからって、いい映画を作っているとは言えない。
 とにかく仕事が、自分のやっていることが好きなんだ。書くのも撮影するのも僕にとっては両方とも大事で、もともとうまくできるというより、自分の好きなことをやり続けていくと上達していくのではないかな。ある意味、仕事をしながら自分探しをしているところもある」

そんなふうに謙遜するが、海外にネットワークが広がることが作品によい影響を及ぼしていることは事実だ。前作はアンディ・ラウ=香港のサポートがあったが、今回の『心の魔』は香港、韓国の資金が入っている。香港側は、ダニエル・ユーのオクトーバー・フィルム。マレーシア側のペーパー・ハートは、ユーハンとダニエルの妻であるローナ・テーの設立した会社だそうだ。

「合作をすると言っても、たとえば香港で撮れとかいう制約はないしね。やはり熟知しているマレーシアで撮るのが好きだよ。今回は、プサンのサポート(アジア・フィルム・ファンド)のおかげで韓国・ソウルでポストプロダクションができた。サウンド・デザインは杜篤之さん(台湾の第一人者)。マレーシアはサウンドスタジオがいまひとつ満足した出来にはならない。編集は自分でやるからいいとして。前作のとき、マレーシアでやったらすごく高い請求書がきた。たぶんアンディ・ラウがお金をくれたからあると思ったんだろうけど、アンディは無制限にお金を払っていいとは言ってない。今回は、杜篤之(ドゥ・ドーチ)さんで、安いとは誰も言ってないけど、マレーシアの会社の請求よりリーズナブルだったよ。ドルビーミキシングまでやってくださったし。マレーシアではドルビーができないんだ」

と言う。一国だけでは資金調達できないが故の海外の企画マーケット出品であったとしても、それによって海外のより高度な技術を利用でき、作品の完成度を高めることができたことは事実だろうし、逆にその技術面がマレーシア映画界の将来に向けての改善点のひとつと言えるだろう。

そのマレーシア映画界にあって、ホー・ユーハンの今後は?

「ジャンルというのはあくまで映画をどう進めるかであって、こうでなきゃいけないというのがない。映画の作り方・リズムには、どうやっても僕の色が出ていると思う。それは変わらない。創作する過程が好きなので、脚本、とにかく脚本を頑張ってやっていきたい。いま、1年くらいあたためている企画があるんだ。香港のとある有名俳優を起用したくて、その人を念頭において書いている。もし断られたらそれは小説にする。で、その本人の前で脚本を焼いてやる(笑)。いや、もうあと2年くらいね、その俳優が歳を重ねるのを待っているんだ。今はまだ彼が若いから。ちょっと犯罪もあるけど、メロドラマで書き甲斐がある。ギャンブラーの話さ」

この東京国際映画祭の共催企画であるTIFFCOMの企画マーケット(TPG)には、別の企画も出品していたとか。

「全編日本で撮って、日本人の俳優でというのも面白いかもしれない。自分にとっての異国でもやってみたいな。人物構成はシンプルにして」

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【香港映画好きにも楽しめる『心の魔』トリビア】。ちょっとだけですが、俳優起用のウラ話を。

●主人公の青年の母を演じた恵英紅は、70~80年代のショーブラザースのアクションスター。昨今はクララ・ワイの英語名表記が多いようだが、ベティ・ウェイ、クララ・ウェイといった名前でクレジットされた出演作は日本でも何作かビデオ化された。

ホー・ユーハンは、Q&Aでは英語だったが、広東語・北京語もでき、つまり、香港映画もけっこう見て育ったのは想像に難くないわけで……

「クララ・ワイの映画はずっと好きで見ていたんだ。『心の魔』でこの母親役の役者を探すにあたって、優しい母親役が出来る人はマレーシアにいるけれど、こういったタフな母親を演じられそうな女優は見当たらなくて、『インファナル・アフェア2』に彼女がちらっと出ているのを見て、はっと思って、アン・ホイ監督に『連絡がつかないんだけど、電話番号教えてもらえる?』って問い合わせて教えてもらって捕まえました。じつは『RAIN DOGS』にも出てもらいたかったのだけど、そのときは連絡がつかなかったんだ」

クララ・ワイの演技は実にすばらしく、09年の金馬奬で最優秀助演女優賞を見事受賞した。

●そのタフなお母さんの息子、つまり主人公のタッチャイ役は香港アイドルのチョイ・ティンヤウ(徐天佑)。

「最初この役は、マレーシアで探した。でも、しっくりいく俳優がいなかった。具体的に何が欠けているのか自分でもわからなくていたのだけど、あるとき、パトリック・タムの『父子』(第19回東京国際映画祭・最優秀アジア映画賞受賞作)をたまたま見て、最後のほうで成長した少年としてこの徐天佑が出てきて、あ、この感じがまさに僕が探している感じだと思ったんだ。彼のことをマレーシア人だと思い込んで他の人に訊いてみたら『彼はマレーシア人じゃないよ、香港の俳優だよ』ってわかって、調べてみたらSHINEというデュオのひとりだったんだ」

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